12月の一大イベントと言えばやはりクリスマスですね。
クリスマスにはサンタさんがプレゼントを届けてくれるのを心待ちにしながら眠りにつくお子さんも多いのではないでしょうか。
今回はある女の子とその家族達のサンタクロースにまつわるお話を、短編小説という形で書いてみました。
もしよろしければ読んでみて下さい。
サンタクロースの正体は?
ネグレクト、昔はなかった言葉だ。
少なくとも私が最初の結婚をした30年近く前には存在してなく、世の中の定義も家事のできない人とか子供との遊びが苦手なお母さんとか、大人しいお母さんとか、問題視する声もほとんどなかったように思う。
人は名詞が付かないと問題視できない生き物なのかもしれない。
今であれば育児放棄という言葉が意味する所は、子供に危害が有りそうなら通報できる、通報しなければならないのではないか… と思える。
だが、あの頃は誰も問題にすらしなかったし、放置する事がマナーというか常識だった。
そんな中で私に問題意識が芽生えたのは娘が小学4年生の頃。きっかけはコトネちゃんだった。
娘は幼い頃からお世話が大好きで近所の小さな子を引き連れて登校したり、学校が終わると近所の公園で一番小さな子に合わせた遊びをする子供で、その流れか週末ともなれば我が家には託児所のように近所の小さな子達が集まるのが常だった。
私は子供の社会に口を出すほどヒマではなかったし、先回りして心配を募らせるほど過保護ではなかった。
まあ無関心とまでは言わないが、ケンカや問題が起これば存在感を出すつもりでいたが、実際に口を出したことは一度もなかった。
と言えば聞こえは良いがそれがシングルマザーの現実だった。
そんな中で娘が特に気にしてたのがコトネちゃんだった。
春に道路向かいのアパートに引っ越ししてきて保育所に通う四歳の女の子だ。
お父さんの仕事はわからないが建築関係の工事をしているらしく、朝早くから夜遅くまで働いていて、お母さんは医療関係で夜勤がある仕事だということだった。
世話焼きの娘は、引っ越してきたコトネちゃんが遊びの輪に入れない事を気にかけて声をかけ、何度か遊ぶうちに「お姉ちゃん、お姉ちゃん」と慕われるようになった。
人の関係とは不思議なものだと思う。縁と呼んでもいい。
数か月の間にコトネちゃんは娘の本当の妹のようになつき、娘もそれに応えるようになっていた。
他にもたくさんの子供がいるのに2人は特別だった。
特に仲良くなるイベントがあった訳ではないが、それが不思議なところだ。
夏になった頃、娘がコトネちゃんが心配だと言い始めた。
理由を聞くと四歳なのに字を読めて、九九も出来るという。
それは心配じゃなくてすごい褒める事だと私が言うと娘は、覚えるまでご飯があたらなくても褒める事なのかと聞いてきた。
覚えるまでお風呂に入れてもらえなくても、それでも褒める事なのかと。
秋が始まる頃には色々な事がわかった。
コトネちゃんはお父さんが大好きだと言う事。
いつも仕事で忙しいがお母さんが夜勤の時には保育所に迎えに来て夜ご飯はコトネちゃんの好きな物を作ってくれる事。
料理はお父さんしか作らない事。
よく夫婦喧嘩をする事。
仕事からお父さんが帰ってきてコトネちゃんが勉強していたら、お母さんに強く怒るからケンカが始まる事。
お父さんにはたくさんお友達がいて、休みの日にはコトネちゃんと遊びに行く事。
お父さんのおじいちゃん、おばあちゃんの家に行くと牛がたくさんいておもちゃを買って貰える事。
お母さんは本当に好きな友達がいない事。
たまにお母さんの友達の家にコトネちゃんも連れて行ってもらえるが、帰ってきた後で連れていくんじゃなかったとお母さんが怒っている事。
お母さんは自分のお姉ちゃんとケンカしてからお母さんのおじいちゃん、おばあちゃんの家に行っていない事。
お父さんはお酒を飲まないが、お母さんはお酒を飲みに出掛けると朝になっても帰ってこない事。
お父さんはコトネちゃんには怒らないが、誰かをいじめたり悪い事をするときっと怒られると思っている事。
お母さんは毎日誰かに怒っている事。
秋が深まり山の色が賑やかになる頃、新しい事が分かる度に私の心は痛んだが、娘のそれに比べると幾分軽い事も分かっていた。
お父さんは絵本を買うが、お母さんは勉強のドリルを買う事。
お父さんが出張の時には夜ご飯もお風呂もない事。
夫婦喧嘩がひどくて警察が来た事。
お父さんは喧嘩の時にお母さんを殴るが、最初に殴るのはお母さんだからコトネちゃんはお母さんが悪いと思っている事。
お父さんは離婚してコトネちゃんと二人で暮らそうとしていて、コトネちゃんもそれを願っている事。
お母さんは、絶対に離婚しないし、お父さんにはお母さんを幸せにする責任があるから悪いところを治さなきゃいけないと言っている事。
お母さんは自分の服は買うが、お父さんとコトネちゃんの服はあまり買わない事。
服を買う事はお母さんのストレス解消だから、ストレスの原因のお前らの服は買わないと言っている事。
勉強させている事を誰にも言うなと口止めしている事。
娘とコトネちゃんの話しをする機会が随分多くなっていた。
幾ら話しても何の力にもなれないは分かっていても、コトネちゃんの幸せを私たちは願っていた。
初雪が降った日、コトネちゃんは泣いて娘に聞いたきたという。
お母さんがサンタクロースなんていないと言ったそうだ。
トナカイの橇もなく、本当はお母さんがおもちゃを買ってくるのだと。
だから、良い子かどうかを判断するのはお母さんだから、言い付けを守りなさい。と言ったのだという。
それは本当なのかと聞かれた娘は、コトネちゃんのお母さんは嘘つきだ、と答えた。
私も娘に同意した。
偽物のサンタクロースもいるが、本物のサンタクロースはちゃんといてプレゼントを配っているのだと伝えた。
サンタクロースからの手紙
クリスマスの朝、寒さで頬を真っ赤にしたコトネちゃんが娘の元にやってきた。
冬休みに入ったばかりの娘はまだベットの中だった。
笑顔のコトネちゃんは娘に手紙を見せていた。
本物のサンタクロースからの手紙だというのだ。
コトネちゃんは、お母さんは夜勤だから寝ていて、これからお父さんと出掛けるのだという。
娘に手紙を見せる為、家を出るまではお母さんにバレない様にゆっくりとドアを開け、外に出た途端に走って来たのだとハアハアと息を切らしている。
娘は飛び起きてスゴイ、スゴイと手紙を読んだ後、私にも見せてくれた。
平仮名と片仮名だけで書かれた手紙は便箋に二枚。所々鏡文字でわざと間違って書かれている。
「コトネちゃん ハッピークリスマス
いちばん おにいさんの イッタクロース はアメリカにいきました。
にばん おにいさんの ニタクロースは ロンドンにいきました。
ぼくは サンタクロース ほっつかいどう でプレゼントを くばります。
いつも おべんきょう しているみたいですが もっと
おおきくなってから してください。
こどもは あそぶのが しごとです。
たくさんあそんで たくさんおともだち をつくって。
べんきょうをしなくても いいこだし おやのいうこと を きかくても いいこです。
おとうさん と おかあさんが けんか しますが コトネちゃんはえらいから
とくべつにふたつ プレゼント をおいていきます。
なんばんめ か したの おとうとの ロクタクロースが パプアあたりで よんでいるので
また らいねん あいましょう コトネちゃんにとって よい いちねん になるように」
角ばった男文字の手紙からは、色々な感情が湧きたつようだった。
子供への愛情は勿論、夫婦喧嘩の申し訳なさ、夫婦の教育観の違い。
娘と私はコトネちゃんがお父さんと二人で幸せに暮らしてほしいと願ったクリスマスだった。
人の関係とは不思議なものだと思う。縁と呼んでもいい。
あれから随分と時間が経った。
コトネちゃんは大学生となり娘は天職と言える保母さんになっている。
シングルマザーだった私は再婚しコトネちゃんの母となった。
コトネちゃんの姉となった娘はあの頃のまま仲の良い姉妹だ。
人の関係とは不思議なものだと思う。縁と呼んでもいい。
あのクリスマス、あの手紙を読んでいなければ、私は再婚まではしなかったと思っている。
そうだとするともしかしたら、もう何番目か下の弟キュウタクロースあたりがあの日、私達にも素敵なプレゼントを届けたのかもしれないと、垂目で子供想いの主人と話す夜に幸せだと感じる。
まとめ
もはや日本で定例行事となったクリスマス。
様々な家庭でそれぞれのクリスマスを過ごしていると思いますが、子供にとってサンタクロースは夢のある特別な存在になっています。
子供だけではなく大人にとっても楽しく素敵なクリスマスを迎えたいですね。
お読み頂きありがとうございました。